初期の脂質異常症には目に見える症状や痛みがありません。しかし、血液中に増えすぎたLDLコレステロールや中性脂肪の影響で血管内に少しずつコレステロールが沈着し、動脈硬化が静かに進行していきます。このように、ご自身で気づくのは難しい点も脂質異常症の特徴です。

動脈硬化は、血管の内壁にコレステロールが蓄積して血管が狭く硬くなった状態です。これにより血流が悪化し、全身の臓器に十分な血液が供給されにくくなるため、心臓や脳、腎臓や末梢動脈などにさまざまな合併症を引き起こす可能性があります。
たとえば、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、脳出血、高血圧性腎硬化症、閉塞性動脈硬化症などが挙げられます。

脂質異常症、特に高トリグリセライド血症は、膵炎の原因の一つとされています。血中のトリグリセライド（中性脂肪）が極端に増加すると、激しい腹痛や嘔吐を伴う急性膵炎を引き起こすことがあり、重症化すると命に関わる可能性もあります。
また、脂質異常症を放置すると、膵臓の炎症が慢性化して慢性膵炎へと進行することがあります。膵臓の機能を守るためにも、脂質異常症の早期治療が重要です。

食事療法で健康体重をめざすことで、脂質異常症の改善が期待できます。飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を多く含む動物性脂肪や加工食品を控え、不飽和脂肪酸を含む青魚やナッツ類を積極的に摂取しましょう。
また、食物繊維が豊富な野菜や海藻、全粒穀物を取り入れることで脂質の吸収を抑えられます。さらに、中性脂肪を増やす糖質やアルコールを控えめにし、バランスのよい食事が大切です。

運動療法は、血中脂質の改善や動脈硬化の予防に有効です。特に、ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動は、HDLコレステロールを増やしてLDLコレステロールや中性脂肪を減少させる効果があります。できれば1回30分以上、週に3～5回の運動が推奨されています。
さらに、筋力トレーニングを取り入れればより効果が期待できます。運動療法は継続することが重要なので、無理のない範囲で行いましょう。

食事や運動だけで改善が難しい場合は薬物療法を行います。代表的な薬剤は「HMG-CoA還元酵素阻害薬（スタチン）」で、コレステロールの合成を抑制してLDLコレステロールを低下させます。そのほか、血中コレステロールの代謝を促す「陰イオン交換樹脂薬」や、コレステロールの吸収を抑える「小腸コレステロールトランスポーター阻害剤」などがあります。一人一人の症状やリスクに合わせて薬剤を選択し、組み合わせて使用します。